わっぱの会は、就学する社会的養護のケアを離れた子ども・若者(ケアリーバー)が孤立せずに就学を継続し、社会への巣立ちを応援する事業を2022年4月より開始します。
社会的養護とは厚生労働省によれば「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」と定義されています。
対象となる子どもは施設(児童養護施設等)、ファミリーホーム、里親による養育のもと生活しており、約4万2千人にのぼります。社会的養護は原則18歳までとされており、入所措置や里親委託が解除された子ども・若者のサポートが不十分であることが社会の課題として認識されるようになり、2021年には初めて全国的調査※が行われました。
※「児童養護施設への入所措置や里親委託等が解除された者の実態把握に関する全国調査」以下「全国調査」と記載。
施設出身者の進学が難しい現状
児童養護施設で暮らす子どもの高校進学率は高くなりましたが、高校卒業後の進路は一般に比べて進学率が低いことが明らかとなっています。

この背景には児童養護施設出身者の経済的基盤の弱さが指摘されています。児童養護施設を出た若者の多くは自立して一人暮らしをすることとなるため、大学・専門学校等の学費と住居費をはじめとする生活費を自身で負担することは極めて困難です。
以下のグラフの通り、全国調査では「退所に向けた不安や心配だったこと」で最も高い割合を示したことは「生活費や学費のこと」(47.0%)であり、以下のような当事者の声があります。
- 生活費と学費を専門学校と両立してアルバイトで稼がないといけないという不安。
- 親からの金銭的支援は全くして貰えないとわかっていたので学費や家賃、生活費が足りるか不安になった。
- 生活費のために生活の中心がバイトになっていて、学校の授業・課題が疎かになっている。
- お金の出費が多く、学費が払えるか心配。
- 奨学金を借りているので、しっかり返すことができるか。

社会的養護のケアを離れた子ども・若者(ケアリーバー)が直面する課題
経済的な問題の他にも施設出身者の若者は多くの課題にぶつかります。
全国調査では施設を出てひとり暮らしをはじめるときに不安なことや必要なサポートとしては次のようなものが挙げられています。
- 何年も生活してきた施設を退所して、いざ一人暮らしした時に、不安や寂しさを感じた。
- 体調が崩れた時に一人で対応しなければいけないことが心配だった。
- 家事をほとんどしなきゃいけないのかという不安と焦り。
- ゴミの捨て方、料理の作り方、一般的な常識に不安があった。
- お金の管理が出来ず借金しかしていないため今後が不安。
- 退所したあと、年金や保険の書類がとても困りました。
- 施設退所後はほぼ自分の力で動かないといけないため進学と自分の生活の両立が辛かった。
厚生労働省は、自治体が虐待などを受けた子どもが児童養護施設などを出た後も支援を続ける場合、その費用を補助する「社会的養護自立支援事業」を2017年に始めましたが。全73自治体(児童相談所設置自治体)のうち35.6%が生活や就労の相談に対応する自立支援コーディネーターを配置していないということが明らかとなっており、ケアリーバーへの公的支援が不足している現状です。
ケアリーバーは進学しても卒業のハードルが高い現実
全国調査では調査時点で「働いている」と答えた人の最終学歴の約8割が「中学・高校」卒業で4年生大学は2%、短大・専門学校は10.6%にとどまっていることが明らかになりました。
他の調査では進学後1年3ヶ月が経過した時点で14.8%が中退しているという報告もあります[1]。全国調査の「現在困っていることや不安に思うこと」には就学継続の難しさと関わるような記述がみられます。
- 金銭面の不安
- 周りの人が実家に帰る時期が特につらい
- 相談場所がわからず悩んでいる
- すぐそばに頼れる人がいない
- 信頼できる人(施設の長い付き合いの職員)をなくし、孤独感を感じる

[1] 「全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2020」認定NPO法人ブリッジフォースマイル
わっぱの会は住まいの提供から社会への巣立ちまで一貫してサポートします
- 少しでも経済的負担を減らすために低廉な家賃で住居を提供します。
- 専従の世話人がひとり暮らしのために必要なサポートをします。
- 就学を継続するために必要なサポートを提供します。
社会的養護経験者が差別を受けず孤立しない社会をめざして
わっぱの会は1971年から障害のある人ない人が共に生き共に働く場をつくってきました。以後、活動の幅は生活困窮者支援や居住支援にも拡がり、2016年からは団体の目的を「差別をなくし、障害者を始め社会的排除された人と誰もが共に働き共に生きる社会をつくる」と定めて活動しています。
本事業を通して、社会的養護経験者が偏見や差別を受けず、孤立しない社会をつくることに寄与したいと考えております。本事業は公的な制度によることなく、民間助成金や趣旨に賛同いただく方からのご寄付で運営いたします。応援したいと思っていただける方はぜひとも寄付や活動でのご協力をお願いいたします。